GET BACK !

人が、かつていたところ ──エデンへ ……

大野更紗『 困ってるひと 』

  


この本について、なにを書こうとしても、結局は、自分が無力であり、なにもできないことの言い訳を書くに過ぎない。


著者の大野更紗さんは、上智大学で出会った ビルマミャンマー)難民問題に深く関わり、現地やタイの難民キャンプに何度も足を踏み入れ、その問題に尽力してこられた。そして、その最中に、一般の理解の域を超えた半端ではない難病を発病し、闘病生活を余儀なくされ、今なお難病との格闘の日々を送っておられる。
 

Twitter 仲間から勧められて、この本を手に取った。世間で静かに話題になっていることはすでに知っていた。
しかし、すぐに後悔した。気分転換に本でも読んでみようというのには、まったく向かない。
だいたい、“ 困ってるひと ” というタイトルが、詐欺のようなタイトルである。泣き叫び、もがき、なお黙殺されるひと、ぐらいが妥当ではないか!

そんなわけで最初、読み進むのが苦しくて大変だった。だが、大げさでユーモラスな表現が随所に散りばめられていて、かろうじて、前へ進めてくれた。それは自虐ネタで笑いを取るしか手立てのない漫才師を見ているようで、切なくもあったのだが……

ビルマの難民も、日本の医療難民も、災難や病気だけが問題なのではない。愛されないことの苦痛こそが問題なのだ。マザー・テレサ の言葉に、愛の反対は無関心であるという名言がある。
日本の医療制度にしても、最低限度の命綱として用意されているに過ぎず、無関心にも程がある、と言われる手前ギリギリのところで、かろうじて成立している。そして、人材不足の医療現場において、いい医者とは、患者の甘い依頼心を取り除いて、しっかりとした自立心を持たせるものだという結論になってしまう。
あまりにも不毛な世界がそこには厳然と広がっている。
無情、不条理という、そんな状況を簡単に片付ける言葉もある。しかし彼女は、人が人として、誇れるものになるには、越えなければならないことがあるはずだと、懸命に訴えている。

かつて彼女が、ビルマ難民の研究者であった時、“ 難 ” の観察者であったが、発病によって、“ 難 ” の当事者になったと言うように、我々も、いつまでも傍観者であり続けることはできない。どんなに拒もうとしても、当事者になる日が来れば、避けることはできないからだ。
 
彼女は、最果て という言葉を使って、過酷な環境と心情を表現する。しょせん、行ったことのない者には、想像する以外にない。
そんな最果てに読者を誘い、その求めに応じて、知らせたいことを投げかけてくれる。
 
この本は完結していない。読んだ者は、これからも、彼女を見守ることになるだろう。